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2011年6月16日 (木)

【野球本・3】『あるキング』 〜野球界の「王」になるべく運命づけられた男〜

野球本紹介・その3、今回は小説を。野球小説って余り読まないのですが(だって現実の方が面白いんだもん)たまには毛色の違う物を。
(※記事中のリンクは全て単純リンクです)

『嗤うエース』とどちらを取り上げようかと迷ったのですが、野球小説としても異質な『あるキング』にしました。
『嗤うエース』(本城雅人著)はプロ野球の八百長を描いた半ドキュメントのような手触りのフィクションです。時は昭和、とある人気球団のエース・浪岡に振りかかる黒い交際と八百長疑惑。果たしてエースは白なのか、黒なのか・・・。お話としては面白いですが、私として展開が今ひとつでしたので・・・興味のある方は是非ご一読を。同じ著者の『スカウト・デイズ』も読んでみたい)


「あるキング」伊坂幸太郎(徳間書店)
Aruking
Amazon.co..jp
徳間書店

いやはや、「紹介」するには苦労する小説でした。
(極力ネタバレしないように書いています)

伊坂幸太郎さんは「重力ピエロ」しか読んでいないのですが、非常に映画的な展開をする作者だなあ、と感じました。その片鱗はこの本にも伺えます。

徳間書店の本紹介にはこうあります。
「弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである両親のもとに生まれた山田王求。“王が求め、王に求められる”ようにと名づけられた一人の少年は、仙醍キングスに入団してチームを優勝に導く運命を背負い、野球選手になるべく育てられる。期待以上に王求の才能が飛び抜けていると知った両親は、さらに異常ともいえる情熱を彼にそそぐ。すべては「王」になるために――。人気作家の新たなるファンタジーワールド。」

実際このくらいの知識だったので、ごく普通の野球小説と思って読み始めたのですが、それは第二章から早くも裏切られました。良くも悪くも。
ファンタジー?かと思ったらいや、「本当は怖いグリム童話」かも知れない、と思い、いやいや野球に限らず閉塞気味の人間社会に対するアンチテーゼかも知れず・・・と読みながら戸惑いはどんどん増し、しかし途中からは物語世界の中に落ち着いてしまうというちょっと面白い体験ではありました。

文中に「マクベス」や「ジュリアス・シーザー」のエピソードがちょこちょこと登場します。つまりシェイクスピアが引用されるのですが、シェイクスピアに対して一般的な知識以上を持ちあわせていない私には共通項を見出す事が難しく、逆にマクベスなどに触れたことのある方ならそれなりに整理しながら読めるのかも知れません。もちろんシェイクスピアを全く知らなくても問題なく一つの物語として読むことは出来ます。

主人公山田王求。紛うかた無き野球の天才。
両親は、息子王求は「野球の王」である、と一転の曇りも無く信じ、というよりも信じる以前に当たり前の事だと認識し、その無邪気とも言える思いの中で王求を育て、慈しみ、庇護します。王求はその運命に実に従順に育ち、まさに「王」と言えるべく実力を備えて行きます。

しかしその突出した能力が故に周りの人間は距離感が掴めず、扱いを持て余し、結局「異質な者」として対処せざるを得ない。簡単に言えば「無視」です。孤独な王。孤独な王求。
しかし、その能力に対し無頓着な人間は普通に王求に接し、そして影響を与える事も出来ます。そういう人からすれば王求は普通の人間でもありました。

「王」となるべくして生まれた人間はそうそういないでしょうが、確かに山田王求はその数少ない選ばれた人間でした。いや、そうであるように見えます。

そうです、王求は何かの力によって運命を動かされていた、いや、決定されていた存在でした。それが為、本人は孤独と思ったことも無く、野球に対する疑問も自己の存在に対する疑問すらなく己の人生を全うして行きます。

果たして王求は野球界の「王」になれたのか。その王は本物の「王」だったのか。裸の王様だったのか。まがい物だったのか。それとも、真の王は王求の後にこそ、生まれるのか。

私が一番気になったのは、王求は野球ファンに果たして愛される「王」だったのか、と言う事。
それは読む人によってそれぞれ違うかも知れません。

読了後もなにやら重苦しい感覚と、あまりにも超越した存在の野球人としての王求に喝采を送りたい気持ちとがないまぜになり、間違っても「爽やかな読後感」が得られる本ではありません。
野球小説としては極めて異質ですが、王求を「王求」という存在にしなくてはならなかった著者の気持ちもわかります。
こういう野球小説もたまにはいいな、と思いました。


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